東京高等裁判所 昭和56年(ラ)33号 決定
本件記録によれば、抗告人と被相続人との身分関係その他被相続人の養育、本件土地の管理、祭祀の承継等の事実関係については、すべて原審の認定するとおりであることが認められ、抗告人は被相続人の死亡後約三〇年後に生れた者であることが明らかであるところ、そもそも民法第九五八条の三の法意は、遺言、遺贈あるいは死因贈与等を補うべきものとして、とりわけ、遺言の利用が必ずしも活発でないわが国情をも勘案して、被相続人の遺志にもかなうべき特別の縁故関係にある者が存する場合には、この者に相続財産を分与しようとするところにあるから、被相続人の死亡後に生れた者は、本来これに該当する余地のない道理であるが、今直ちに、諸般の事情を総合してなお相当と認められる場合には、例外的にかかる者に相続財産を分与することもまた許容されて然るべきものと考える余地が全くないと断ずることには躊躇を感ずる。この点において原審の見解は厳格にすぎるものといわざるを得ないが、仮りに右例外を否定しない立場に立つとしても、本件においては、さきに認定された事実関係のほか、抗告人の父保雄が親族一同の協議に基づき、被相続人の家系を継ぐため、その従妹尊子と婚姻を結び、下山尊蔵との養子縁組を経て下山姓を名乗るとともに、その子である抗告人についても、被相続人の父省平の名の一字をとって「省一」と命名し被相続人を含むその一族の祭祀に任じて来たほか、長年にわたって本件土地の公租公課を負担するなどその一切の管理に当り、同地上に居宅を構えてその生活の本拠とし、抗告人またそのすべてを受けついで来たこと等本件記録上認められる叙上の諸点を特に加えて勘案するとしても、その先代、先々代はともかく、抗告人と被相続人との関係は、薄く、かつ、遠いものというほかはなく、抗告人をもって例外的に被相続人の特別縁故者に当るものとするにはなお足りないものというべきである。
(杉田 中村 松岡)